恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「高校三年間で、私、上履きとか体育館シューズとか、三回新調してるんです。教科書も、二年生の時のは二回新しく用意し直しました」
突然思い出話をしだした私に、田村さんは不思議そうに眉間にシワを寄せる。
「焼却炉で燃やされたり、教科書全ページ糊付けされたりしたんです。体育館倉庫に一時間閉じ込められたこともありました。……本当に、男女問わず、嫉妬って怖いですよね」
苦笑いで言うと、田村さんは「え、いじめってこと?」と驚いた顔で言うから、首をひねった。
「いじめ……っていうよりは、嫌がらせだったと思います。瀬良さんと付き合っている私への。犯人は、女子だったり男子だったりしたので、理由は嫉妬と妬みだったんでしょうね。男子は、瀬良さんになにかすると、瀬良さんを好きな女子が怖いからターゲットを私にしたんだと思います。私になにかする分には、女子も面白がったでしょうし」
「ひどすぎない……?」と顔色を悪くする田村さんに、笑いながら言う。
「結構ひどかったです。幸い、友達にも恵まれてましたし、守ってくれるひともいたから腐ったりはしなかったですけど。でも……それでもへこたれなかった私が、田村さんの今の脅しに乗るわけがないってわかってもらえましたか?」
微笑んで聞いた私に、田村さんはバツが悪そうに笑い「ごめんね。忘れて」と腰を上げた。
パタパタとスリッパの音を響かせて走ってきた瀬良さんが私の前に姿を現したのは、田村さんがいなくなって数分した頃だった。
息を切らせた瀬良さんの髪は濡れていて、温泉から上がったばかりなのかな、と思う。
いくら旅館内は浴衣一枚でいても快適な温度だからといって、濡れ髪のままでいたら風邪をひいてしまいそうだ。
そんなことを心配しながら見上げていると、瀬良さんが不安そうに眉を寄せて聞く。