恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


「他の営業に、田村さんが千絵に声をかけてたって聞いて……大丈夫だった?」

それを聞いただけで、こんなふうに駆けつけてくれたのは、きっと田村さんの立場を知っているからだろう。

瀬良さんは自分勝手に見えて、周りを結構見ている。
自分が異動になってから二位に落ちた田村さんのことも、しっかり見ていて知っていたんだ。

田村さんが自分にどんな感情を向けているかも。

「大丈夫です。高校の頃の呼び出しと比べたら、なんでもなかったので」

ふふっと笑って言うと、瀬良さんは「……ごめん」とややバツが悪そうに謝る。

瀬良さんと対峙しているっていうのに心が穏やかなのは、さっき、田村さんと話していたときに思い出したことがあるからだろうか。

前は瀬良さんを前にしただけであんなにツラかったのに、今は気持ちが穏やかだった。

「いえ。瀬良さんのせいじゃないですから。……それに、高校の頃、瀬良さんは犯人を探し出してきちんと制裁を与えてくれてましたし」

私の体育館シューズを焼却炉に入れた男子生徒には、私の新しいシューズを買わせた上でさらに先生に突き出していた。
あとから、菓子折りを持った両親に連れられた男子生徒がうちまで来て頭を下げるから、結構困った覚えがある。

教科書を糊付けした女子生徒は、PTA会長の娘だった。だからか、なぁなぁにしようとする先生にキレた瀬良さんは、女子生徒を強引に連れて行き、女子生徒の教科書を職員室のシュレッダーにかけるという暴挙に出た。

当然、厚みがあるせいでシュレッダーはものすごい音を立てて詰まったのだけれど、寄ってきた先生に瀬良さんが言った言葉はまだ覚えている。


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