ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『遅くなってごめんな。時間大丈夫?』
平静を装うために、言葉を噛まないように細心の注意を払いながら言葉を紡ぐ。
頬の筋肉が震えかけているのを誤魔化すように口角を無理矢理引き上げて笑顔を作る。
俺の不自然さが隠せていなかったのか、伶菜は不思議そうな表情を浮かべながら俺をじっと見つめた。
でも、ここで崩れるわけにはいかないと俺は伶菜の体調を気遣うことでいつもの俺らしくあるよう自分に仕向けた。
申し訳なさそうに居眠りをしていたことを口にする伶菜。
どうやら俺のことを探ろうとしている彼女の気を逸らすことができたかも・・と安堵した瞬間、福本さんが診察室内に入ってきた。
「伶菜ちゃん、お久しぶり!お腹、大きくなったわね!」
今回の伶菜の状況を理解しているはずの福本さんだが、伶菜と向き合うその姿はいつもと変わらない
さすが数多くの患者さんと関わってきたベテランだとこんな時にも思い知らされる
その福本さんから書類の入った封筒を受け取った俺。
主治医である俺が伶菜にしてあげられること
”病状を説明して、転院を勧めること”
多分、コレが自分が彼女にしてあげられる最後のことになるだろう
丁寧にわかりやすく、そして、冷静にやろう
彼女が納得できるまで
そう腹を決めた俺が封筒の中の書類を取り出そうとした瞬間、感じた視線。
それは明らかに戸惑いらしきものを隠せていない伶菜の視線だった。