ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


福本さんが伶菜の背後に腰掛け、こっちを見た。
お互いの視線が絡み合う。

”ナオフミくんだからできる支え方もあるってことを忘れないで。”

福本さんが言ってくれた言葉が瞬時に頭を過ぎった。


主治医という立場の手
患者である彼女からその手を離すことが今の俺にできる ”支え方” なんだろう
何としてでもお前を助けると訴えた自分が彼女の手を離すのは無責任なことと思えて仕方がない

でも・・・

その手がもう彼女に届かなくなったことを自ら自覚しなくてはならない
その手を自ら彼女から離すことをもう先延ばしにしてはならない


『・・・・高梨さん。』


伶菜の瞳が大きく揺れても


「は、ハイ。」

『突然な話なんだけど・・・』



肩を竦め、手で口を押さえるというように、彼女の体が不安な気持ちを隠し切れなくなっても

そして

その不安を感じ取り、自分自身までもが苦しくなっても



『東京・・・』

「・・・東京?」

『・・・東京医科薬科大学病院に転院したほうがいい。』




俺は

・・・現実を

・・・彼女にとって最善の方法を


彼女に伝えなくてはならないんだ





それが

彼女が前に進むために差し出そうとしていたこの手がもう届かなくなった俺の
彼女の主治医としての最後の仕事だから・・・・



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