ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「おお・・・」

目をパチクリしながら大きく頷いている彼。
認印、きっと当たりだ!


「宅配か・・・もし来たら、それも預けておいたほうがいいな。」

彼はそう言いながら、右手にクイズの対象物を握ったまま、その手で左手をポンと叩いた。


あれ?それも預けておいたほうがいいということは、認印ではなかったんだ
じゃあ、右手の中にあるものは何だろう?

それは一体何なのか全く見当がつかず、首を傾げていた私に、彼はさっきまで握ったままだった右手をゆっくりと開きながら差し出した。


「コレ、預けておくよ。」

私はそれを受け取ろうと自分の右手を差し出した。


その手の上に載せられたモノ。
それは真新しい銀色の鍵と黄緑色のとても小さなヨットが入っているボトルシップのキーホルダー。


このキーホルダー、見たことある
先生のクルマの鍵についてたっけ?



『このキーホルダー、お借りしてもいいんですか?先生が使っていたものなのでは?』

「俺のはちゃんとここにあるからいい。」


彼はポケットの中から車の鍵らしくモノをさっと取り出して見せてくれた。
それに取り付けられているキーホルダこそ、私が見覚えのある水色のヨットの入った小さなボトルシップだった。


「これは伶菜の鍵だから。」


色は異なるけれど、お揃いなんだ
しかも、合鍵
その上、私の鍵らしい

合鍵かぁ
本当に一緒に生活するんだ
スキになってはいけない人とね

大丈夫かな、私・・・


「じゃ、行って来ます。」

かなり疲れているハズなのに穏やかな笑顔を見せる日詠先生。


なんか新婚さんの生活みたい
こういう時、新妻は
”行ってらっしゃい、早く帰って来てね”
なんてちょっぴり上目遣いでカワイイ声をかけちゃったりするんだろうな

新妻かぁ・・・・


「あっ、帰って来るの早くて、明日の夜10時だから・・・明日の夕飯作ってやれなくてゴメンな。今日は疲れてるだろうから早く寝たほうがいいぞ!じゃ、急ぐから、おやすみ・・・」


そう言いながら彼はノートパソコンらしきモノが入っている鞄を抱えて颯爽と玄関を出て行ってしまった。


それから暫くして、日詠先生の家で祐希とふたりになって気が付いた。
彼に行ってらっしゃいと言い忘れてしまったことを。

そこからだった。
私の長い夜が始まったのは・・・・。


< 288 / 699 >

この作品をシェア

pagetop