一途な彼は真面目で純粋で歳下で。《完結》

芳川さんの声のトーンが一気に下がったのが分かった。




「少し前までの社長ならその話を受けていたでしょう。しかし既に愛する女性を見つけてしまった社長は、その政略結婚を断固拒否されました。結婚相手は自分で決めると。一般的に大企業の御曹司がそんな事許される訳がありません。親も親族も会社の重役でしたから猛反対して社内が一時大荒れでした。頑なに政略結婚を嫌がる社長に、気づいてしまった重役が居たのです。もう既にそういう相手が存在するのだと。、、それからはあっという間でした。お金を払って社長の相手を探し出し、彼女の素性を調べ上げた。愛人の子である彼女は相応しくないと判断され2人は引き離されました。」

「そんなっ、、酷いっ、、!」

「正確にいうとある日突然、彼女は姿を消したのです。親にも恋人にも何も告げずに。」

「っ、、。」

「きっと会長や親族から何か言われたのでしょう。もしくは圧を掛けられたか脅されたか。真意は分かりませんがその日を境に社長は仕事を放棄して必死になって彼女を探し始めました。しかし見つかる事はありませんでした。何かにとりつかれたように数年探し続け、憔悴しきっていた社長にある一通の手紙が届きました。先出人も何処から届いたかも分からない手紙。そこにはこう記されていました。〝貴方は世界を背負って生きる人。そんな重圧にも負けずキラキラと輝きながら働く格好いい貴方が大好きでした。だから早くいつもの貴方に戻って下さい。貴方には沢山の方の生活が掛かっています。それを忘れてはいけません。でもだからと言ってそんな重圧になんか負けないで下さい。ずっと陰ながら応援しております。ここからは私事ですが私は今、愛する人と幸せに暮らしています。だから貴方も幸せを見つけて下さい。〟と。字と内容を見れば、この手紙を誰が書いたモノかなんて直ぐに分かりました。、、彼女は社長の今の状況をどうにかして知ったのでしょう。愛する者を失い腑抜けてしまった社長に彼女のなりの叱咤激励だったのでしょうね。そして同時に私の事は早く忘れて欲しいというメッセージにも取れました。」

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