一途な彼は真面目で純粋で歳下で。《完結》
「それは跡を継がせる気が無かったからだ。結局、暁人の父親は暁人に興味が無かったという事だろ。」
「第三者でさえそう思ったのなら社長の思惑通りですね。」
無表情で淡々と過去を話していた芳川さんがイライラとした慎一の言葉を聞くと、とても優しい表情を見せた。
「理由があるんですね?私は暁人くん本人から話を聞いた時に凄く違和感がありました。彼は自分は愛されていないと言ってましたけど、私にはそうは思えなかったです。この前、病室でお会いした時も、嫌っている様には到底見えなかった。」
「、、さすが暁人さんが心に決めた女性だ。よく人を見ていますね。そして心がとても綺麗です。きっとそんな柏木紗江さんだったから社長もお認めになったのだと思います。社長にとって暁人さんは愛しの女性が産んだひとり息子。自分が悪者になってでも守り続けた大事な宝物なのです。」
「理由を教えて下さい。何故、悪者にならなければいけなかったのかを。」
「先程、慎一さんがおっしゃったように社長は暁人さんに会社を継がせるつもりなど毛頭ありませんでした。それは過去の自分の様に窮屈で辛い思いをさせたく無かったからです。財力も地位もしがらみも何もかも無い所で自由に生きて欲しかったのだと思います。、、〝自分には叶わない夢だ〟と一度だけ本音を漏らされたことがあります。しかし暁人さんは唯一の跡取り。周りがそれを良しとはしません。だから息子に対して興味の無いように振る舞われました。愛情を掛けず、表情を変えず、まるで他人の様に過ごされました。、、その分、暁人さんには辛い思いをさせてしまったのかもしれませんが、そのお陰で周りも過度な期待を持たなくなっていきました。あの世界を背負う敏腕社長が跡取りに相応しく無いと判断したと思ったのです。」