心がささやいている
「そーいうトコがイイんじゃん。ミステリアスっつーか、謎めいた色気っつーの?そーいうのに男はそそられちゃうワケよ。なんたって彼女、美人だしなっ」
「はあっ?アンタ何言ってんのっ?なんか言い方ヤラシイんだけど!」
「っていうか、あーいうのが好みなワケ?ホント男って単純よね!」

女子二人は、すっかり引き気味だ。そんな二人に男子生徒は「ひがむな、ひがむな」と声を上げて笑いながら他の友人の元へと移動して行ってしまった。
その場に残された二人は、そのあんまりな言われように「ひがんでなんかないっての!」と強く反論していたが、それにも飽きると溜息を吐いた。

「まぁね。月岡さん、美人なのは認めるけどさ」
「ふん…」
「ま、気を取り直して…ねぇ!そろそろ行こーよっ」

皆に声を掛けると、それぞれ帰り支度を始めた。


そうして、ぞろぞろと連なって教室を後にするクラスメイト達の賑やかな声を見送って。廊下の陰に一人たたずんでいた少女は、誰に気付かれるでもなくひっそりと小さく息を吐いた。
そう。彼女こそが先程の噂の人物、月岡咲夜(つきおか さや)その人であった。

授業終了後、手洗いに行って教室へと戻って来ると、何故か自分の名前が室内から聞こえてきて。思わず咄嗟に身を隠したのだ。

(別に隠れる必要なんて、何もないんだろうけど…)

自分は何も悪いことなどしていないのだし。
だが、この場にいないものと思い話題に上がっている所に敢えて出ていける程、自分は図太くはないし。何よりそれほど気不味いものはない。
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