心がささやいている
「…おかあさん?」
「なあに、咲夜。…どうかしたの?」

『そんな目で見ないで。あの人と同じ…その()。もう、見たくもない』

…私が何をしたというのだろう?
存在そのものを(うと)まれてしまう程に、何か悪いことをしてしまったのかな?
自問自答を繰り返しても答えなんか出て来なかった。当然だ。だって、自分は何もしていない。父と母との問題に何も関わることすら出来やしなかったのだから。

でも、この時に全てを理解したのだ。
母が宝物だと可愛がっていたのは、『愛する人との子』であって『私』じゃないということ。
裏切られ、憎しみの相手に変わった父の子である私は、もう宝物なんかじゃなく、いらないものなのだと。



「…っ…」

少し眠ってしまっていたらしい。
気が付けば自分の部屋のベッドの上で、すっかり辺りは暗くなっていた。窓から隣の家の明かりがうっすらと灯っているのが見える。暗さに慣れて来た目で壁に掛かる時計を見れば、時刻は既に夕方の六時半を回っていた。

(…嫌な夢、見ちゃったな…)

母とのことは、もう今更なのに。まだ自分は気にしていたりするんだろうか。そう思うと余計に憂鬱(ゆううつ)な気分になる。
それでも、さっきの猫探しの件の影響を受けているんだろうなぁと、咲夜は知らず遠い目になった。

(本当、イヤな話だ…)

ペットは、飼っている人にとっては家族同然だという話もよく聞くのに。
いくら引っ越し先で飼えない環境だからといって、保健所に連れて行くなんて有り得ない。せめて誰かに預けるとか違う対処法はなかったのだろうか。

(何にしても…。大空さんがその事実を知ったら、きっと悲しむだろうな…)

自分の都合で簡単に切り捨ててしまえる…。
そんなの、愛情なんかじゃない。
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