旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 俺はその時、結婚指輪ひとつで家計がどうこうなる心配はないのだと、自分の家柄について軽く説明しようとしたのだが。

「隆臣とは、つつましくても幸せな家庭を築きたいな……なんて思ってて。ほら、前に隆臣がパンケーキ作ってくれたじゃない? ああやって、お店で高いお金払わなくても、家でふたりでお料理したり、くつろいでいるのが一番楽しくて落ち着くな~っていうような」

 はにかみながら理子が語ったささやかな夢に胸を打たれ、俺は口を開きかけたまま固まった。なぜなら、今までの俺にはまったく縁のない言葉だったからだ。

 近づいてくる女は例外なく〝御曹司の海老名隆臣〟が目当てで、俺自身はむしろおまけ。長い付き合いの許嫁すらそうだった。

 食事に行きたい=夜景の見える高級レストランに連れていけ、だし。誕生日プレゼントが欲しい=まだ持っていないブランドバッグか光り物のアクセサリーをよこせ、だし。

 ……サバでも首からぶら下げとけよ、と何度心の中で悪態をついたことか。

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