愛され秘書の結婚事情*AFTER
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朝の給湯室で、そんな会話がやり取りされている頃。
いつもの時間に出社した七緒は、常務室で一人、「ハァーーー」と重い溜め息をついた。
昨日、ハリーが会社に来たことで、帰宅後の悠臣の機嫌は最悪だった。
預かったからには仕方がないと、名刺はちゃんと手渡したものの、七緒がそれを受け取った途端、彼は「あの男とはどういう関係?」と言った。
「ていうか、昨日の件て何なの。もしかして昨晩は、彼と会っていたの」
「ええっと……。すみません。ちょっとお手洗いに……」
「えっ……」
恋人の制止を振り切って、七緒はトイレに逃げ込んだ。
そしてそこで、ハリーに電話を掛けた。
彼からの“用事”は、七緒が想像した通りの内容だった。
七緒の返事を聞いた彼は、上機嫌で「了解。うっかり昨日聞き忘れてね。本当は仕事の後にまた僕の部屋へ呼びたかったんだけど、フィアンセも同じ会社だってことを失念していたよ。ごめんね」と、初めて会った時と同じ、チャーミングな口調で詫びた。
「いえ、いいんです。こちらこそ、本当に有難うございます」
七緒は感謝の気持ちを込めて礼を述べ、それから通話を切ってトイレを出た。
しかしトイレを出た途端、厳しい表情で仁王立ちする悠臣に迎えられた。
「どうしてわざわざ、トイレで話すの」
珍しく本気で怒った顔で、彼は言った。
「彼との会話は、そこまでして僕に隠さないといけないものなの」
「…………」
追い詰められた気分で、七緒はうつむいた。
そんな彼女を見て、悠臣はハァと嘆息した。
「……七緒」
「……はい」
「いくらうちの母が君に箝口令を敷いたからって、律儀にそれに従う必要はないんだよ?」
「……はい」
「君が母に悪いと思うのなら、僕は知らないフリをしたっていい。だから話してくれないか。昨日どこへ行っていたのか」
「あの……、ハリーさんを、紹介されました」
渋々ながら、七緒は少しだけ情報を明かした。
「お母様のサーフィン繋がりのお友達だそうで。ハワイで知り合ったそうです」
「ふーん。それで?」
「え?」
「どうして彼は今日、わざわざ君に会いに来たの」
悠臣はそこで自分のスマートフォンを掲げ、帰宅前にインターネットで見つけた、ハリーのフェイスブックページを七緒に見せた。
「確かに彼はサーフィンが趣味のようだ。アメリカで人気のグラフィックデザイナーだそうだね。女性ファンも多そうだ」
「そうですね……」
「名刺にはオフィス専用の電話番号がちゃんと載ってる。なのに彼はなぜ、君にはプライベートの電話番号を教えたんだ」
「多分、こっちに掛けて欲しかったからだと思います……」
「彼のファンなら、喉から手が出るほど欲しがるだろう、プライベートの電話番号を。昨日知り合ったばかりの、フィアンセのいる日本人女性に教える意味は?」
「…………」
朝の給湯室で、そんな会話がやり取りされている頃。
いつもの時間に出社した七緒は、常務室で一人、「ハァーーー」と重い溜め息をついた。
昨日、ハリーが会社に来たことで、帰宅後の悠臣の機嫌は最悪だった。
預かったからには仕方がないと、名刺はちゃんと手渡したものの、七緒がそれを受け取った途端、彼は「あの男とはどういう関係?」と言った。
「ていうか、昨日の件て何なの。もしかして昨晩は、彼と会っていたの」
「ええっと……。すみません。ちょっとお手洗いに……」
「えっ……」
恋人の制止を振り切って、七緒はトイレに逃げ込んだ。
そしてそこで、ハリーに電話を掛けた。
彼からの“用事”は、七緒が想像した通りの内容だった。
七緒の返事を聞いた彼は、上機嫌で「了解。うっかり昨日聞き忘れてね。本当は仕事の後にまた僕の部屋へ呼びたかったんだけど、フィアンセも同じ会社だってことを失念していたよ。ごめんね」と、初めて会った時と同じ、チャーミングな口調で詫びた。
「いえ、いいんです。こちらこそ、本当に有難うございます」
七緒は感謝の気持ちを込めて礼を述べ、それから通話を切ってトイレを出た。
しかしトイレを出た途端、厳しい表情で仁王立ちする悠臣に迎えられた。
「どうしてわざわざ、トイレで話すの」
珍しく本気で怒った顔で、彼は言った。
「彼との会話は、そこまでして僕に隠さないといけないものなの」
「…………」
追い詰められた気分で、七緒はうつむいた。
そんな彼女を見て、悠臣はハァと嘆息した。
「……七緒」
「……はい」
「いくらうちの母が君に箝口令を敷いたからって、律儀にそれに従う必要はないんだよ?」
「……はい」
「君が母に悪いと思うのなら、僕は知らないフリをしたっていい。だから話してくれないか。昨日どこへ行っていたのか」
「あの……、ハリーさんを、紹介されました」
渋々ながら、七緒は少しだけ情報を明かした。
「お母様のサーフィン繋がりのお友達だそうで。ハワイで知り合ったそうです」
「ふーん。それで?」
「え?」
「どうして彼は今日、わざわざ君に会いに来たの」
悠臣はそこで自分のスマートフォンを掲げ、帰宅前にインターネットで見つけた、ハリーのフェイスブックページを七緒に見せた。
「確かに彼はサーフィンが趣味のようだ。アメリカで人気のグラフィックデザイナーだそうだね。女性ファンも多そうだ」
「そうですね……」
「名刺にはオフィス専用の電話番号がちゃんと載ってる。なのに彼はなぜ、君にはプライベートの電話番号を教えたんだ」
「多分、こっちに掛けて欲しかったからだと思います……」
「彼のファンなら、喉から手が出るほど欲しがるだろう、プライベートの電話番号を。昨日知り合ったばかりの、フィアンセのいる日本人女性に教える意味は?」
「…………」