愛され秘書の結婚事情*AFTER
「ああ……なんだ……。僕はてっきり、別れ話をされるのかと……」

「別れ話? え、なんですかそれ」

 七緒は驚いて、だらしなく肘掛けにうつ伏せた悠臣を見た。

「悠臣さん。別れ話って何のことですか」

「…………」

 しばらく無言で肘掛けに顔を伏せていた悠臣は、バツの悪そうな顔を彼女に向け、「ごめんなさい」といきなり詫びた。

「君が最近、隠し事ばかりするし。なんか余所余所しいし。昨日なんて自宅に帰っちゃうしで、すっかり振られるんだと思い込んでました……」

「はぁっ!?」

 驚きとショックで大声で叫んだ後、七緒はそのままの勢いで立ち上がった。

「どうして私が悠臣さんを振るんですかっ! 逆はあっても、私から悠臣さんを振ることなんて、一〇〇パーセントありえませんっ!!!!」

「それを言うなら、僕が君を振ることは、一二〇パーセント有り得ないからね!?」

 同じ勢いで言い返した後、悠臣はまた短く嘆息し、「ああ、もうっ!」と自分も立ち上がった。

 そして彼は、目の前の細い体を、強引に両腕で抱き寄せた。

「あ」と短い声を上げ、七緒は簡単に彼の腕の中に収まった。

 たった二、三日、触れ合っていなかっただけで。

 心と身体は猛烈に彼女を欲し、理性も節度もその欲望の前に霧消した。

「は、悠臣さん。まだ話は……」

 終わっていません、と言いかけた彼女の口を、悠臣はキスで強引に封じた。

「話はあと。全部、あと」

 そう言い切って、彼は彼女を軽々と横抱きすると、問答無用に寝室へ運んだ。

「……私のこと、怒ってないんですか」

 男の首に両手を掛けながら、七緒はその顔を覗き込むように見つめた。

 ベッドの上に彼女の体をゆっくりと下ろしながら、悠臣は「怒ってなんかいないよ」と笑みを浮かべた。

「今はただ、ひたすらホッとしてる。そして猛烈に、君を抱きたい」

 ストレートなその言葉に七緒はホッと胸を撫で下ろし、そして恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 その表情を無言の了承と受け取り、悠臣はおもむろに七緒を押し倒した。

 情熱的な口づけを受けながら、七緒はうっとりと目を閉じた。

 愛する人の温もりと抱擁に飢えていたのは、彼女も彼と同じだったから。
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