愛され秘書の結婚事情*AFTER
<結>
翌日、午後零時ジャスト。
いつもは二十あるテーブル席が、三分の二も埋まることのない社員食堂だったが。
今日は各部署の女帝、ゴッドマザー、姐御、影のボス、などの声掛けもあって、全テーブルが綺麗に埋まっていた。
さらに八席あるカウンターの椅子を合わせても席が足りず、立ち食いソバ状態で“ショーの開演”を待つ者もいた。
予想以上に大入り満員の社食を見て、七緒はゴクリ、と喉を鳴らした。
今からこの中に入り、一番奥の加代やしのぶのいる精算レジ近くに行き、特別にセットしたマイクを通し、婚約発表を行うのかと思うと。
自然と額に脂汗が滲み、背中を冷や汗が伝いと、熱いのか寒いのかもわからないくらい、緊張した。
(でも、やらなくちゃ……)
清水の舞台から飛び降りる覚悟で、七緒はギクシャクした足取りのまま、今回のステージを用意してくれた協力者の元へと、一歩一歩近付いた。
七緒が登場した途端、食堂の全員の視線が彼女に集まった。
どうにか目的の場所に辿り着いた七緒に、しのぶが「佐々田さん。はいこれ、マイク」と、レジ下の電源に繋いだそれを、七緒の手に渡した。
これまでの人生で、こんなに誰かの注目を浴びたことなどない七緒は、頭の中が真っ白になり、昨日一人で考えたスピーチが、全て白紙に戻ったのを感じた。
「あ、あの……。皆さん、お疲れ様です……。秘書室の、佐々田七緒です……」
震える声でどうにかそれだけ挨拶すると、途端に彼女の登場を待ちかねていたギャラリーから、歓声とも野次ともつかない声が上がった。
「待ってました!」
「七緒ちゃん、可愛い~~~」
「左薬指の、ティファニーが眩しいよーーー」
しかしすかさず横から、総務のゴッドマザーが「野次馬、うるさいっ」と一喝し、ふざけた連中を黙らせる。
シンと静まり返った食堂で、けれど七緒は、自分が何を話せばいいのか完全に忘れ、「ええと、この度は……誠に、ワタクシ事で皆さまの貴重な昼休みを頂戴し……ええと……」と、「ええと」と連呼した。
だんだん皆の苛立ちが高まった気配がし、加代達が「自分達が代わりに話すか」と思い始めた頃。
いきなり人波を割って、悠臣が現れた。
彼は七緒の手からマイクを奪うと、「皆さん、こんにちは」といつもの朗々とした声で挨拶した。
突然の常務の登場にポカンとするギャラリーに向かい、彼はニッコリと優雅な笑みを浮かべ、言った。
「この場を借りて、ご挨拶します。佐々田七緒さんのフィアンセの、桐矢悠臣です」
そう言って、彼が七緒の肩を右手で抱き寄せるのと、食堂中の人間の悲鳴とも雄叫びともつかぬ声が響き渡るのは、ほぼ同時だった。
翌日、午後零時ジャスト。
いつもは二十あるテーブル席が、三分の二も埋まることのない社員食堂だったが。
今日は各部署の女帝、ゴッドマザー、姐御、影のボス、などの声掛けもあって、全テーブルが綺麗に埋まっていた。
さらに八席あるカウンターの椅子を合わせても席が足りず、立ち食いソバ状態で“ショーの開演”を待つ者もいた。
予想以上に大入り満員の社食を見て、七緒はゴクリ、と喉を鳴らした。
今からこの中に入り、一番奥の加代やしのぶのいる精算レジ近くに行き、特別にセットしたマイクを通し、婚約発表を行うのかと思うと。
自然と額に脂汗が滲み、背中を冷や汗が伝いと、熱いのか寒いのかもわからないくらい、緊張した。
(でも、やらなくちゃ……)
清水の舞台から飛び降りる覚悟で、七緒はギクシャクした足取りのまま、今回のステージを用意してくれた協力者の元へと、一歩一歩近付いた。
七緒が登場した途端、食堂の全員の視線が彼女に集まった。
どうにか目的の場所に辿り着いた七緒に、しのぶが「佐々田さん。はいこれ、マイク」と、レジ下の電源に繋いだそれを、七緒の手に渡した。
これまでの人生で、こんなに誰かの注目を浴びたことなどない七緒は、頭の中が真っ白になり、昨日一人で考えたスピーチが、全て白紙に戻ったのを感じた。
「あ、あの……。皆さん、お疲れ様です……。秘書室の、佐々田七緒です……」
震える声でどうにかそれだけ挨拶すると、途端に彼女の登場を待ちかねていたギャラリーから、歓声とも野次ともつかない声が上がった。
「待ってました!」
「七緒ちゃん、可愛い~~~」
「左薬指の、ティファニーが眩しいよーーー」
しかしすかさず横から、総務のゴッドマザーが「野次馬、うるさいっ」と一喝し、ふざけた連中を黙らせる。
シンと静まり返った食堂で、けれど七緒は、自分が何を話せばいいのか完全に忘れ、「ええと、この度は……誠に、ワタクシ事で皆さまの貴重な昼休みを頂戴し……ええと……」と、「ええと」と連呼した。
だんだん皆の苛立ちが高まった気配がし、加代達が「自分達が代わりに話すか」と思い始めた頃。
いきなり人波を割って、悠臣が現れた。
彼は七緒の手からマイクを奪うと、「皆さん、こんにちは」といつもの朗々とした声で挨拶した。
突然の常務の登場にポカンとするギャラリーに向かい、彼はニッコリと優雅な笑みを浮かべ、言った。
「この場を借りて、ご挨拶します。佐々田七緒さんのフィアンセの、桐矢悠臣です」
そう言って、彼が七緒の肩を右手で抱き寄せるのと、食堂中の人間の悲鳴とも雄叫びともつかぬ声が響き渡るのは、ほぼ同時だった。