愛され秘書の結婚事情*AFTER
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午後五時半。
自分が社内で噂の的になっていることも知らず、七緒は「クシュンッ」と小さなくしゃみをした。
すかさず隣に座っていた悠臣が、気遣わげな目で彼女を見る。
今、二人は社外視察からの帰りで、社用車の後部座席にいた。
「大丈夫? 風邪?」
「……大変失礼致しました。いえ、ただ急に寒気を感じて……」
六月下旬。
すでに半袖でも汗ばむ陽気となり、逆にそれで夕刻には、汗が冷えて体温が下がりやすい。今の七緒はまさにその状態だった。
手で軽く腕をこする彼女を見て、悠臣は「浅井さん」と、運転手に声を掛けた。
「会社に戻る前に、先に僕のマンションへ寄ってくれる?」
「かしこまりました」
勤続十二年のベテラン運転手は、すぐさまウィンカーを出して車の行き先を変えた。当然彼は、七緒と悠臣が婚約済みなのを知る、数少ない一人である。
「常務? あの……」
「君は先に帰りなさい」
「えっ、でもあの……」
「いいから。明日も仕事なんだ。風邪を悪化させて休まれたら困る。これは上司命令です」
「…………」
悠臣お得意の「上司命令」が発令され、七緒は渋々「わかりました」と目を伏せた。
午後五時半。
自分が社内で噂の的になっていることも知らず、七緒は「クシュンッ」と小さなくしゃみをした。
すかさず隣に座っていた悠臣が、気遣わげな目で彼女を見る。
今、二人は社外視察からの帰りで、社用車の後部座席にいた。
「大丈夫? 風邪?」
「……大変失礼致しました。いえ、ただ急に寒気を感じて……」
六月下旬。
すでに半袖でも汗ばむ陽気となり、逆にそれで夕刻には、汗が冷えて体温が下がりやすい。今の七緒はまさにその状態だった。
手で軽く腕をこする彼女を見て、悠臣は「浅井さん」と、運転手に声を掛けた。
「会社に戻る前に、先に僕のマンションへ寄ってくれる?」
「かしこまりました」
勤続十二年のベテラン運転手は、すぐさまウィンカーを出して車の行き先を変えた。当然彼は、七緒と悠臣が婚約済みなのを知る、数少ない一人である。
「常務? あの……」
「君は先に帰りなさい」
「えっ、でもあの……」
「いいから。明日も仕事なんだ。風邪を悪化させて休まれたら困る。これは上司命令です」
「…………」
悠臣お得意の「上司命令」が発令され、七緒は渋々「わかりました」と目を伏せた。