愛され秘書の結婚事情*AFTER
「ところで佐々田さん」

「はい」

「昨日、母とどこへ行ったのか、やっぱり僕に話すつもりはない?」

「うぐっ……」

 昨晩、日付が変わる直前に帰宅した七緒を、悠臣は当然のごとく、起きて待っていた。

 そして彼女は彼に、布団に入って寝つくまで、起きて出社するまで、「(晶代と)どこへ行ったのか」「何をしたのか」「何を言われたのか」と、怒涛の追及を受けた。

 だが男の詰問に、七緒は頑なに口を噤んだ。

 そして申し訳なさそうに、「お母様に、悠臣さんにはまだ秘密だと、言われていますので……」と、ひたすらにその言葉で逃げ続けた。

 当然悠臣としては、色んな意味で面白くなかった。

 昨晩、退社する時と帰宅後の七緒は、一見どこも変わった様子はなかった。

 だが良く見ると、メイクが勤務中よりわずかに濃く、さらに香水の残り香もあった。

 七緒は香水はつけない主義だ。だから悠臣はすぐに、あれは晶代の仕業だと気付いた。

(……まったく。深夜に僕の花嫁を連れ回して、一体何をしていたんだ。まさか、今から夜遊びを教えようとか、クラブやバーでのマナーを手解きしてやろうとか、そんなふざけた遊びを思いついたわけじゃないよな?)

 何しろ悠臣との結婚を決めた途端に、会社経営者の妻としての勉強を始めようとした七緒である。

 副社長夫人だった晶代にいらぬ知恵をつけられて、彼女の言うがまま、誤った方向への努力を始める危険性はある。

「あの、いずれはる……常務にもキチンとご報告致しますので……」

 秘書の姿勢を崩さないまま、七緒は困り顔で言った。

 彼女を困らせるのは悠臣としても本意でなく、彼は「果たしてそれは一体いつかな」とボヤき、しかしそれ以上の追及は止めた。
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