いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


「触んなって」

川口の手を払い除け、低い声が、やけにフロア内に響いた。

「怖がってんだから怒鳴るなって言ってんですよ、さっきから。伝わってません?」

突然豹変した声色に川口がぐっと何かを堪えるように黙り込む。
それを確認し、満足したのか。
坪井は説明を再開する。

「えーっと、その後16時半そのFAXの配達完了時間ですねを誤着分の配達に来てくれたみたいですよ。いつもの女の子ではなく、赤い紐の社員証を首から下げた女の子に荷物を渡した、と言ってます。担当ドライバー」
「え?赤い紐って……」

真衣香の隣で驚いたように声を出したのは小野原だ。
真衣香の会社は、部署ごとに社員証の紐の色を分けている。赤は営業部だ。
真衣香は自分の首からぶら下がる黄色い紐に触れた。

「ってことで、多分、このフロアのどこかにありますよ、サンプル。捨てるまでの覚悟はないんじゃないかなぁと思うんで」

坪井は、川口の耳元でこっそりと呟く。
真衣香や小野原にはギリギリ届く声の大きさだ。

「あー、ちなみに印鑑はいつもの女の子のものだったけど特に確認せず渡したって。まあ、そりゃそーだよね。同じ会社なんだし問題ないはずなんだけど」

この騒ぎを眺めるギャラリーに、聞こえないようにしているのかもしれない。

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