いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「……あ、あとね。私は、坪井くんに振られてるんだよ。羨ましい存在なんかじゃないよ」
「え?ふられ、て……」
心なしか笹尾の声が弾んだような気がする。
もしや、川口のことよりもこちらの方が笹尾にとっては大きな問題だったとでもいうのだろうか?
「応接室では、そんなふうに見えなかったですけど」
「ううん、ほんとに。もうね、舞い上がって勘違いしちゃってたところをね、グサッと」
「ぐ、グサッと……」
「そう。だから、笹尾さんの方が」
しかし、ここで真衣香は口をつぐんだ。
『笹尾さんの方が可能性あるんじゃないかな?』と、口にしようとして。そうできなかった。
――坪井に、好きと言われたことを間に受けて気を遣っているわけではない。あの言葉を今誰よりも疑っているのは、真衣香自身だ。
では、なぜ言葉にしたくないのだろう。
(言ったら、笹尾さん……どうするの? 坪井くんに伝えるのかな)
ドクンドクンと嫌に心臓の音が響く。しかし答えは出ない。
何を、躊躇しているのか。そんな必要は、どこにもないじゃないか。
そう思うのに、真衣香の心音は落ち着くどころか激しさを増す。
頭の中に様々な言葉が浮かんで、浮かんで、まとまってくれない。
彼氏になってくれた夜のこと。
傷つけられた夜のこと。
好きだと言われた、夜のこと。
その様々なシーンで見た表情、聴こえた声。
なぜ、今こんなにも頭の中に坪井の存在が溢れかえっているのか?
黙り込んでしまった真衣香の代わりに笹尾が口を開いた。
「あの、ば、バレバレだと思うんですけど、私坪井さんのこと好きなんです」
「う、うん……」
掠れた声で、何とか相槌を打った。
「が、頑張ってみても大丈夫でしょうか、好きって……その、伝えてみても、立花さんはもう坪井さんのこと何とも思ってないですか?」
たたみかけるような、笹尾の口調。実際には違うのかもしれない、真衣香がそう聞こえていると思い込んでいるだけなのかもしれない。
そう思うのに、呼吸が少し苦しい。笹尾の目を見ることが、恐ろしい。