俺様副社長に娶られました
『社長が昨夜のデベロッパーとの会合で話した件を精査したいとのことです』


真面目ぶった声で実沢は言った。
昨夜、都市開発で新しく建設される商業ビルとホテルの融合施設にうちのカフェバーを出店するという話になった。
カフェバーの売上と店舗数日本一を目指している親父は、格の高いホテルに出店できることをすこぶる喜んでいた。まだ、ただの口約束なのに。


『ついでに一緒にお食事でもと仰っておられますが、これからお向かいに上がってもよろしいですか?』
「今日は無理だと伝えろ」


どうせそっちがメインだろ。
親父と実沢の真意を読んだ俺は、低い声で答える。


『え! な、なぜですか』
「今日は、その……」
『社長が、もしよろしければぜひもう一度奥様お会いしたいので、ご一緒にお食事はいかがか、と。更に更に、ついでに私事ではございますが、新婚旅行のお土産がございますのでお渡ししたいと思っております』


やっぱり……。沙穂に会いたいだけだろ。
なぜむさ苦しいオッサンたちの前に沙穂を連れてかなきゃならないんだ。

無性にイライラしてきて、部屋の中を無意味に徘徊する。


「断る」
『えっ! も、もしかして、また発熱ですか⁉ 体調が優れないのですか⁉』
「いや、違……」
『どんな商談もプレッシャー無く平然とこなす副社長が奥様と暮らすことになって緊張して知恵熱出したときみたいに!』


実沢の大声に、俺はうんざりしながら携帯を耳から離した。


「はあ……」
『副社長、もうだいぶ奥様に懐柔されてるようですね。一緒に住まわれてからはとにかく早くご帰宅することに夢中ですし……』
「黙れ」


実沢は内心面白がってるに違いない。

苛立ちがピークに達し、問答無用で電話を切ろうとしたときだった。


「創平さん! 出かける準備はできましたか?」


部屋の外から沙穂の弾むような大声が届いた。


「ああ、今行くよ」


開いたドアの向こうから、沙穂がこちらをちらりと覗く。
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