俺様副社長に娶られました
「ここから一番近くで座れるお店って無いですか? 喫茶店とか……」


若い女性は高いヒールのパンプスを履いていて、しきりに足元を気にしている素振りを見せる。


「目の前がそうですよ」
「わ、ほんとだ! すみません、私ったら……お恥ずかしい!」


俺がコーヒーショップを指差すと、若い女性は急激に頬を赤く染め、照れたように笑う。

沙穂に匹敵するドジ加減だな。あいつには本当に世の中のすべてのドジを網羅する才能がある。


「いえ、中は混み合ってるようですけど……」
「あ、でも、奥の席は空いてるかもですよね! 行ってみます、ありがとうございます!」


軽く頷いた俺に、若い女性がまだなにか言いたげに若干そわそわしだしたとき、コーヒーショップから沙穂が出てきた。


「創平さん……?」


キョトンと言った沙穂が手に持つカップを見て、俺は唖然とした。

……なんだそれ。苺ラテっていうか、パフェの間違いだろ。


「買えたんだな」
「あ、はい……」


沙穂は俺の隣にまだいる若い女性を訝しげに見ている。

ペコッと頭を下げ、その若い女性はようやく足をかばうような妙な歩き方でコーヒーショップに入って行った。


「どなたですか?」
「さあ」


クリームと苺いっぱいのカップを片手に、沙穂は入店した女性を目で追う。


「創平さんは、よくああして女性から声をかけられるのですか?」


そして急に真顔になって、俺の方をじっと見た。


「あの人……越谷さんに少し似てましたね」
「越谷?」
「わたしも、少し髪を伸ばそうかな……」


カップを持っていない方の手で、沙穂は自分の肩より少し長い髪の毛にそっと触れる。

俺は頭の中で越谷の髪型を思い出そうと頑張ってみたけれど、全然記憶に無い。

それに、沙穂がどんな髪型が似合うか、なんて。俺はさほど関心がない。
どんな髪型でもいい。どんなスタイルでも可愛いに決まってるんだから。
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