婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「なんですかそれ……」

 呆気に取られていたら、さっと立ち上がった長身に見下ろされて何事かと唾を飲む。

 あっという間に距離を縮められて、降ってくるキスを受け止めようとしてはたと我に返る。

「待ってください!」

 顔を背けて拒むと、明らかに不服の顔が「なんだよ」と吐露する。

「さっきは余裕がなくて止められなかったのですが、吐いてから歯を磨いてないので、口は勘弁してください」

「そんなのどうでもいい」

 戸惑いも嫌がりもしない反応に驚きと嬉しさを胸に抱きつつ、しっかりとした意思を持って反論する。

「私は無理です」

 好きな人に、これ以上汚らしい自分を晒したくはない。

「分かったよ。じゃあ、こっち」

 呆れたように小さく息をついた唇は、優しくおでこに触れて離れていった。
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