婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 新さんの匂い、久しぶりだな。

 手を繋ぎ、キスはしていたけれど、いつも片腕には点滴が繋がれていて身体を密着させるなんてできなかった。

 温もりがここちよくて、ずっとこうしていたいと思う。

「片付けるか。茉莉子は座っていて」

 やんわりと身体を離されて名残惜しくなっている私をよそに、新さんは手際よく荷物を大きなバッグに入れていく。

 頼りになる旦那様だなと、無駄のない動きを眺めていたら無性にその広い背中に飛びつきたくなった。

 どう考えても新さん不足だわ。くっつきたくてしょうがない。

「忘れ物はないと思うが……どうした?」

 熱い視線を注ぎ過ぎたらしい。

「なんでもないです」

 想いが通じ合ったからといって、急に大胆に甘えられるわけもなく。

 ましてや入院していてふたりで過ごす時間はほとんどなかったから、関係が変わっていくとすればきっとこれから。

「行くか」

 着替えや化粧品などが入ったバッグはそれなりに重たいはず。それをなんなく持ち上げて、空いている方で私の手を掴んだ。

 気持が伝わるように、大きな手を強くギュッと握り返す。

 今の私にはこれが限界かな、と内心苦笑した。
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