婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「じゃあ、後は頼んだ」

 ひとりになっても、私はいつまでもその場から動けずにいた。

 いつからここに住んでいると言っていたっけ? 記憶があやふやだけど、確か二年以上は前なはず。

 結婚の意思を伝えられたのが半年前だから、そんなに前から私との生活を考えていたの?

 ……いや、まさかね。そんなはずがない。〝私〟ではなく、いつか結婚する誰でもない女性を思ってよ。

 自分のいいように捉えたおめでたい思考に苦笑いを浮かべて、汚れたものを次々に食洗器の中へ並べていった。

 入れ替わりでお風呂に入り、昨日とは違う淡いピンク色の前開きタイプのワンピースパジャマを身にまとってリビングに戻る。

 新さんは濃いネイビーのパジャマ姿でソファに座りながらテレビを眺めていた。手前のテーブルには水のペットボトルが置かれていたので、私もお茶をグラスに注いでから隣に腰掛ける。

「今日はお酒を飲まれないのですね」

「茉莉子は飲みたいか?」

「いえ、昨日飲んだので今日はいいです」

「俺も今日はいい」

「そうですか」

 たわいない話をしてゆったりとした時間を過ごしていたところへ、テーブルに置いてあった新さんの携帯電話が鳴った。

 ディスプレイには【白石美麗(しらいしみれい)】と表示されている。
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