婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 テーブルに並べ終えて揃って椅子に腰掛け、「いただきます」と声を揃える。

 お母さん直伝の味付けは、私は慣れ親しんだものだけれど新さんは違う。

「お口に合いますか? 今後の参考にしたいので、味の濃さや、なんでもいいので遠慮せずに仰ってください」

「おいしいよ」

 たったひと言ではあったけれど、とても嬉しい言葉だ。ホッと息をついて胸を撫でおろす。

「よかったです」

「本当に料理が上手なんだな」

 両親以外に褒められた経験がなかったので、思わず照れてしまい言葉が出てこない。それでも喜びは隠しきれずにはにかむと、新さんはすぐに目を逸らして黙々とご飯を咀嚼した。

 お世辞だったのかな。それでも嬉しいな。

 雑談を交わしながら箸を進めていたらすぐに互いの食器の中は空っぽになった。

「少なかったですか?」

「ちょうどいい量だった」

「それなら明日からこれくらいの量を用意しますね」

 新さんは小さく頷くと時計に視線を流した。

「早いけど風呂に入ってくる」

「では私はその間に洗い物を済ませておきます。といっても大きな食洗機があるので、中に食器を入れてボタンを押すだけですけどね」

「そうなのか。一度も使用していないからよく分からない」

 料理をしない新さんらしいな。

「それは宝の持ち腐れでしたね。これからは私がたくさん使わせてもらいます」

「元々、茉莉子が使うのを想定して選んだ物件だからな」

 ……ん?

 すぐに頭が回らなくて口ごもる。
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