君 色。 <短>
薄い沈黙の壁を先に破ったのは、ケイちゃんだった。
「……びっくりしたよ」
「うん」
「南のこと考えてたとこだったから」
「え?」
ケイちゃんの“びっくり”は、私達が出くわした偶然ではなかった。
「南の好きな季節が来たなって思ってた」
「……違うよ」
「え?なんて?」
「ううん。なんでもない」
君が居なくなってからは、ずっと嫌いだったよ。
わけもわからず泣きそうになる、変な季節だから。
だって……
別にこんな季節、ちょっとおいしいものが多いかなってくらいで
私には、特別な魅力なんて、何も感じないもん。
あのね、ケイちゃんが好きだと言ったこの季節が
秋の匂いが好きだと、嬉しそうに笑う横顔が……
私は好きだっただけなんだよ。
「私もね…ケイちゃんの事、考えてたとこだった」
「え?」
「ホームの前に立つと、いっつも思い出すの」
「……そっか」
髪で覆われていた右耳を、私は黙ったまま、そっと見せた。
覚えてるかな?
説明してもよかったんだけど……
今、口を開いたら、なんだか泣きそうだったんだ。