くちびるが忘れない
「家どこ?それとも…俺の家来るの?」

『えっ!む、無理です』


何を言い出すの!


驚いてドアに張りつく私をこちらも見ずに鼻で笑っている


からかわれてる…


私にはそんな余裕まったくないのに


渋々最寄り駅を教えて俯いた


もう早く着いて!


矢野将太郎が軽い気持ちで言った「家来る?」発言


なのに私の中では頭がパンクしそうになってる


プライベートが全く見えない矢野将太郎


1人暮らしなのは颯太が言ってた


ベイエリアにマンションを持ってるって


「お前さ…そんな警戒すんな」

『………』

「俺のせいで甲斐さんと別れたって思ってるんなら…」

『違います!それは!矢野さんは関係ないです!』


ハッキリ全否定した


矢野将太郎は私をジィッと見てなぜか笑った


見た事ないような頼りない表情で


もうわかんない


矢野将太郎も甲斐さんも自分自身も…


家の側まできて道を教える以外はほとんど話さなかった


ただ2時間近く私を刺激し続けた煙草の匂い


まるで麻薬みたいにクラクラして


酔ってるような気分


『ここです。ありがとうございます』


やっと解放される



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