【女の事件】黒煙のレクイエム
第63話
8月5日のことであった。

ひろつぐは、空いている時間を利用して飯田市内にある簡易裁判所まで行った。

ひろつぐは、裁判所にアタシが働くお嫁さんであることを理由に手料理を作らないこととひろゆきが兄嫁の手料理を食べるなと言ったことが原因で、精神的にヒヘイをしているのでアタシとひろゆきに対して合わせて2億円の損害賠償を払えと言う裁判を起こすことを決意したので、裁判所に公判の手続きをとった。

簡易裁判所側は、ひろつぐの訴状があまりにも単純すぎるのではないのかと言う意見が出ていたが、上の命令で裁判は8月中に開かれることになった。

ひろつぐは、アタシとひろゆきを訴えたからあとは2億円を払うように迫るしかない…それだったらと思って、やくざの事務所に出入りをしている弁護士さんに頼もうと思っていたけん、やくざの顧問弁護士がいる法律事務所へ行って、弁護の依頼をお願いした。

ひろつぐは、裁判の手続きが完了したのであとは公判の日を待つだけと言う気持ちになっていた。

しかし、テレビのワイドショー番組で長野県飯田市の簡易裁判所に働くお嫁さんであることが原因で家庭のことをなまけていてダンナをグロウした妻と兄嫁の手料理を勝手に食べるなと言う兄に腹を立てているけん合わせて2億円の損害賠償を払えと言う裁判を起こしたことが話題になっていたので、ひろつぐは日本全国の笑い者になっていた。

その頃、アタシは昼の中納言(伊勢エビ中華料理店)のバイトが終わったので、デリヘル店に行く時間までの間つばきちゃんと一緒に本重町通りにあるカフェレストランへ行って、日替わりのスイーツとコーヒーのセットを注文してティータイムを過ごしていた。

店のテレビの画面は、お昼のワイドショー番組が映っていて長野県飯田市の簡易裁判所で起こす予定の裁判の話題が映っていたが、出演中のコメンテーターのひとりがお腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。

アタシは、コーヒーをひとくちのんでからつばきちゃんにこう言うた。

「ひろつぐは、頭がいかれとんよ…働くお嫁さんは料理を作らへんけん損害賠償1億円払え…兄嫁の手料理を勝手に食べるなと言うた兄に1億円払え…ホンマにあきれてものが言えんわ。」
「アタシもそう思ってはるわ。ひろつぐは、暑さで頭がボーッとしてはるけん、頭がパッパラパーになったんよ…ひろつぐの家の人間は、なに考えとんかしらね…嗤うわ(わらうわ)…」
「あの家の人間は、とっくの昔から頭がいかれとんよ…物事を冷静に考えることがでけんけん、ドアホなんよ…ワイドショーのコメンテーターの女性タレントさんがゲラゲラ笑いよんのがわからへんのかしらね…」
「ホンマやね。」

昼のワイドショー番組の話題は、デリヘル店の女のコたちの間でも話題になっていた。

ところ変わって、名古屋市内のデリヘル店の女のコたちの待機部屋にて…

アタシが待機部屋にやって来る10分前のことであった。

部屋の中は、笑い声でにぎわっていた。

女のコたちは、メイクをしながらワイドショーの話題を話していた。

「ねえ、どう思うかしらねぇ…」
「えーっ、何がぁ?」
「裁判のことよ…働くお嫁さんだから家のことをなまけていてダンナをグロウしたので、お嫁さんを相手に損害賠償1京(いっけい)円請求の裁判よ。」
「あれ、知らんかったん?今日の『グッティ』を見てへんかったん?」
「ええ…アタシさっきまでBSで放映されていた韓流ドラマを見てたから、なんのことか分からないのぉ…」
「しょうがないわね…長野県飯田市の簡易裁判所で起こしたわけのわからない民事裁判のことよ。」
「そうだったのね…」
「アタシね…おかしくてお腹を抱えてゲラゲラ笑っちゃったわ。」
「アタシもぉ…」
「そうね…でも、訴えられた嫁さんの方はたまったものじゃないわねぇ…」
「そうよね…」

女のコたちの声がしぼんでいた時に、アタシが待機部屋に到着した。

「あら、こずえさん。」
「おはよう…だいぶ盛り上がっとったけど、なんの話しよったん?」
「何の話って…やだ、お笑いの話よ…話題の芸人さんのおかしな話よ。」
「さあさあ、たっぷり笑いころげたところで出発の準備準備…」

アタシは、鏡の前に座る前に台の上に赤茶色のバッグを置いて、着ていたデニムパンツを脱いで、鏡の前に座った。

鏡の前に座ったアタシは、着ている白のブラウスを脱いで、下に着ていたチョコレート色のブラジャーのストラップを外して、濡れおしぼりで体をふいて、シーブリーズをつけてからメイクを始めた。

今日の昼のワイドショー番組の話題は、日本全国が笑いに包まれた話題だったけど、アタシは、なんぞ裏がありそうだと思とったけん、警戒している。
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