私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
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 着替えを終えて更衣室から出ると、表で待ってるハズの須藤課長が、出てすぐの角で立って待っていた。胸の前に両腕を組み、気難しそうに眉間に皺を寄せながら佇んでいる様子は、偉い人のSPみたいに見える。

 須藤課長の前を行き交う職員が、ただならぬ気配を感じて、まじまじと見ているというのに、それらの視線を一身に受けても、顔色をひとつも変えない。私なら、すぐに立ち去ってしまうレベルと言える。

「すみません、お待たせしました!」

 慌てて駆け寄ると、迷うことなく私の利き手を掴み、出口に向かって足早に歩く須藤課長。ピリピリした感じが漂っているせいか、向かい側からやって来る人が、自動的に道を開けるという現象が起きた。

「須藤課長、本当にごめんなさい。あんなところで待たせてしまって……」

 会社から出て少ししてから、須藤課長の歩幅が狭められたので、かなり歩きやすくなる。

「謝る必要はない。愛衣さんになにかあったら助けられないと思って、あの場所で待っていただけだ。このまままっすぐ帰るが、どこか寄りたいところはありますか?」

「あの、晩ごはんはどうします?」

「それなら、すでに用意しているので心配ありません。作り置きしてあります」

「それって須藤課長の手料理……」

 思わず、作っているところを想像してしまった。仕事をしているときのような真剣な表情でキッチンに立つ須藤課長が、エプロンを身につけている姿を――。

「手料理と言っても、そんなたいしたものじゃないですから。期待した目で俺を見ないでください」

 隣で恥ずかしそうに顔を背ける須藤課長に、私はにやけっぱなしだった。

「だって、わざわざ作ってくれたんですよね? 今日のために」

 言いながら須藤課長の顔を覗き込んでみたのに、それを察知するなり首を真横に向けて、顔が見えないように施される。

「充明くん、どんな気持ちで、なにを作ってくれたんですか?」

 イジワルと捉えることのできる私のセリフを聞いて、仕方なさそうな感じで顔が正面を向いた。目の下がほんのり赤く染まり、唇はちょっとだけ突き出ていて、拗ねているのが見てとれる。

(こんな顔が見られるのは、きっと私だけなんだろうなぁ。もっともっと困らせたくなる!)

「……どんな気持ちって、きっとベッドから愛衣さんを出さないと思ったので、寝ながらでも食べられるサンドイッチを作りました」

「ベッドから出さないって、そんなの――」

 今度は私の頬が、じわじわと赤くなるのがわかった。

「お互い、我慢にガマンを重ねているんだ。1回じゃ絶対に終われない。もしかして愛衣さんは、そんなに我慢していなかったとか?」

 お返しといわんばかりに、須藤課長は私の顔を覗き込む。繋がれた利き手がぎゅっと握りしめらたこともあって、ドキドキが急加速した。

「愛衣さん……」

「我慢してました! 充明くんがほしいです……」

 思いきって告げた途端に、覗き込んでいた顔が音もなく引いていく。引いたと同時に、歩くスピードがふたたび速くなった。

「だったら愛衣さんの想いに、早く応えなければいけないな」

 照れの混じった須藤課長の言葉に、私はなんと答えていいのかわからず、黙ったまま引きずられるように歩くしかなかった。
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