私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 いつもは手を握るのもキスをするのも優しい須藤課長が、マンションのカギをしめた瞬間からがらりと変わった。

「お邪魔します……」

 パンプスを脱いで、お宅に一歩足を踏み入れたら、手に持っている鞄を唐突に奪われ、その場にひょいと直置きされた。

「え?」

 不思議に思って直置きされた自分の鞄を見ていたら、ぐらりと足元が揺らめき、視界が一気に高くなる。

「須藤課長っ、なっ、なにをしてっ!」

「このまま寝室に行きます。動くと落ちますよ」

「それはわかりますけど……」

 今の私は、須藤課長の肩に担がれた荷物状態。せめてお姫様抱っこをしてほしかった。

(彼女ができたことがなかった人に、あれこれ言うのはかわいそうか……)

 担がれたときは手荒な感じだったのに、ベッドに降ろされるときは、ベッドのスプリングを感じないくらい、ものすごく丁寧に置かれたことに、ほっとするしかない。

「愛衣さん、好き……」

 そう囁いた須藤課長の唇が、触れる手前でフリーズした。

「充明くん?」

「ダメだ。このままだと手加減できない……」

 そう言って一旦起き上がり、上着を脱ぎ捨ててから、ネクタイを解きはじめた。

「愛衣さん悪いけど、自分で服を脱いでくれないか。このままだと、破くことをしてしまうと思う」

「破く!?」

「手加減の仕方がわからない。パンストだっけ? そんな薄いものなんて、ビリビリに破きそうだし、シャツのボタンも引きちぎる自信がある」

 そう言った傍から着ているワイシャツを両手で勢いよく開き、寝室にボタンを弾けさせた。

「緊張して、口から心臓が飛び出そうだ。そのくせヤりたい気持ちも相まって、ものすごく変な気分……」

 自分の両手を見つめながら告げる須藤課長の顔が、見たこともないくらいに強張ったものだった。

「充明くん、大丈夫だよ」

 私もベッドからおりて、緊張で震える須藤課長の冷たい両手を、ぎゅっと握りしめてあげた。

「この間、ここで私を散々イカせまくった人が、なにを弱気になってるですか」

「それは愛衣さんの感じてる姿をたくさん見たくて、つい手が出てしまったというか」

「私も充明くんの感じてるところをたくさん見たい。それと、早くひとつになりたいなって」

 両手で包み込んでいる須藤課長の右手の甲に、そっとキスを落とした。

「愛衣さん――」

 震えていた両手があたたかくなり、やがて震えが止まった。

「愛衣さん、君を好きになってよかった。こんな情けない俺だけど、ずっと好きでいさせてください」

 須藤課長の普段とのギャップに、庇護欲が自然とそそられる。こんな不思議な人、本当にはじめて。

「しょうがないですね。充明くんは私がいないとダメなんだか――」

 最後まで言えなかったのは、押しつけるようにキスされたせい。気持ちのこもったそれを受け止めきれなくて、そのまま後ろに倒れてしまうくらいに重たかった。
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