【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
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時計が19時を回った頃、ご飯て眠くなってしまった柳さんのお子さんを寝かしつけると、そっと子ども部屋を出てリビングに向かった。
「寝た?」
キッチンから小声で確認してくる柳さんに、指で丸を作り頷く。
「はい、ぐっすりです」
「お疲れさま。さ、そこのテーブルにでも座って」
柳さんに言われるままリビングの真ん中にあるテーブルの前に座ると、キッチンから出てきた柳さんが、わたしの前に湯気の立つ紅茶の入ったティーカップを置いた。
「あ……、なんだかすみません」
「労働のあとの一杯だよ。うちの娘、だいぶパワフルだったでしょ」
「いえ、楽しかったです」
可愛さに癒やされ心が若返った気がする。
「それよりご飯までいただいちゃって、逆にすいませんでした」
「いやいや、いいんだよ。お客さんが来てくれて娘も喜んでたし」
小児科の先生をしているという柳さんに本格的な足の処置をしてもらい、その上夕食までご馳走になってしまった。
柳さんはわたしの前に座ると、自分の分の紅茶を一口すすった後、そのティーカップをゆっくりテーブルに置いた。
「で、綾木は、どう? ちゃんと先生やってる?」
不意に気づいた。柳さんがわたしに本当にしてほしかったことは、娘さんの相手ではなく、先生の近況を伝えることだったと。
柳さんの声が先ほどまでより一段階低い。それは、大事な話をする合図のようにも思えた。
「先生、大人気です。授業も分かりやすいし、かっこいいって」