【完】終わりのない明日を君の隣で見ていたい
はっとしてそちらを見れば、先生が柳さんの家の玄関に立っていた。
「先生……?」
そして先生はずかずか入ってきたかと思うと、脇目も振らず、動けないでいるわたしの元に近づいてくる。
「ケガは? ケガは大丈夫なのか……っ」
常に冷静な先生の声が、動揺の色をはらんでいた。
そこに割って入ってきたのは柳さんだった。謝罪なのに、あまり悪びれていない声だ。
「ごめんね。俺が綾木にメッセージ送ったんだ。お前の教え子の森下ちゃんがケガをしたから預かってるって」
けれど、わたしの視線は先生を見上げたまま動かせなかった。先生も、わたしから一瞬も視線をそらさない。
先生の肩が上下に大きく揺れている。先生の髪が乱れている。
「来てくれたんですか、先生……」
じわじわ目のまわりが熱くなるのを感じながらうわごとのように呟けば、先生の肩からふっと力が抜けた。そして、頭にぽんと乗せられた手の温もりと共に、穏やかな声が降ってくる。
「ああ、迎えに来たんだ。帰るぞ」
そんなまっすぐ柔く言わないでください。
ぐわっと胸の底から押し寄せてくる愛おしいという感情に、下唇を噛みしめる。
すると、不意に先生がわたしの前に座りこみ、背中を向けてきた。
「え?」
「足、ケガしたんだろ。おぶってやるから乗れ」
「えっ、そんな、」
さも当然のことのように背中を差し出してくる先生。けれど先生は、わたしを迎えにわざわざここまで来てくれた。その背中におぶさるなんて、そんなの気が引けてとてもできない。