猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
その日、退勤して金剛家に戻ると、離れの玄関にはすでに小さな靴が並んでいた。玄関を入ってすぐに離れに通じる短い廊下があり、その手前玄関に面した和室に志信さん親子が逗留している。
廊下に人影がある。床に座って何か宿題らしきノートを広げているのは信士くんだった。

「こんにちは」
「こんにちは」

信士くんはびっくりした顔をしつつ挨拶をした。私が声をかけてくるなんて思いも寄らなかったという雰囲気だ。

「そうか、お部屋にテーブルがないんだね。畳だと書きづらくて廊下なのか。こっちおいで。離れのテーブルを使いなよ」
「え……でも」

遠慮している様子。志信さんに勝手に行動するな等言われているのかもしれない。

「大丈夫、大丈夫。ほら、ぱぱっとやっちゃおう」

志信さんの帰宅が何時かはわからないけれど、一般的な会社員ならまだ一時間くらいは勤務があるだろう。
ダイニングテーブルを貸し、麦茶をそそいであげる。信士くんはごくごくと喉を鳴らして麦茶を飲んで、算数を解き始めた。一年生の夏なのに、結構難しいことをやっている気がする。進学校って小学校からこんな感じなのかしら。
時折考え、鉛筆を置き、指を折り曲げて数を数える信士くんはどこにでもいる子どもに見えるけれど。

「終わりました。ありがとうございました」

三十分ほどだ。そういって立ち上がり頭を下げる信士くんは、線の細い大人しい男の子。確かに三実さんの遺伝子はどこにも感じない。志信さんには顔立ちがよく似ている。
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