猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「下に私が所属している部署があります。お茶を飲んでいってください」
「そんなのいいわ」
腕を組み苛立たしそうに言う志信さん。下っていくエレベーターの機内でふてくされた声で言う。
「ねえ、幾子さんあなたから言いなさい。別れるって。その方がみんな幸せになれるのよ。別にあの男のことなんか好きじゃないんでしょう?」
好きかどうかなんて言えない。私にだってわからない。
だけど、私から別れるなんて言いたくない。それだけは絶対。
こうした煩悶の数々が上手に言葉にできないのだ。私の答えは待っていないようで、志信さんは思い詰めた顔で続ける。
「三実はね、あの頃のことを後悔してるの。あなたと別れれば私の元へ戻ってくる。信士の父親になってくれる。信士は、すごく賢い子なのよ。あの男が父親になってくれたら、何不自由なく大人にしてやれる」
息子さんのため、お金目当てで近づいている。そう告白している状況なのに、彼女はまったく悪びれることもない。思い込みに近い自己肯定に寒気を覚えた。
「あなたからもよく三実に話しておいてちょうだい」
そう言いつけ、志信さんはまっすぐエントランスを抜けて出て行った。
おかめうどんはたぶん伸びておつゆを吸っている。私はくたくたに疲れて、オフィスに戻った。
「そんなのいいわ」
腕を組み苛立たしそうに言う志信さん。下っていくエレベーターの機内でふてくされた声で言う。
「ねえ、幾子さんあなたから言いなさい。別れるって。その方がみんな幸せになれるのよ。別にあの男のことなんか好きじゃないんでしょう?」
好きかどうかなんて言えない。私にだってわからない。
だけど、私から別れるなんて言いたくない。それだけは絶対。
こうした煩悶の数々が上手に言葉にできないのだ。私の答えは待っていないようで、志信さんは思い詰めた顔で続ける。
「三実はね、あの頃のことを後悔してるの。あなたと別れれば私の元へ戻ってくる。信士の父親になってくれる。信士は、すごく賢い子なのよ。あの男が父親になってくれたら、何不自由なく大人にしてやれる」
息子さんのため、お金目当てで近づいている。そう告白している状況なのに、彼女はまったく悪びれることもない。思い込みに近い自己肯定に寒気を覚えた。
「あなたからもよく三実に話しておいてちょうだい」
そう言いつけ、志信さんはまっすぐエントランスを抜けて出て行った。
おかめうどんはたぶん伸びておつゆを吸っている。私はくたくたに疲れて、オフィスに戻った。