猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
「お姉さん」
「幾子だよ。幾ちゃんって呼んで」

自分で言って猛烈に照れた。年下の子と関わる機会がほとんどなかったから、お姉さんぶっている自分が恥ずかしい。

「幾ちゃん……」

素直に口にして、信士くんが顔をあげた。不安そうな顔をしていた。

「あのおじさんが、僕のお父さんなんですか?」

あのおじさんが三実さんを指すのはわかった。そして、その正解を私は持っているけれど、安易に否定していいものか……。だけど、ごまかすようなことも嘘も言いたくない。

「えっと……違うかも……」

精一杯の言葉だった。志信さんがなんと言い聞かせているかわからないけれど、子どもを利害関係に巻き込んではいけない。
信士くんは、困ったように、いや諦めたように笑った。六歳の子どもが見せるには大人びた表情だった。

「そうですよね。だって、全然似てないもん」
「信士くんは、ずっとお母さんとふたりで暮らしてきたの?」
「うん、そうです。神戸の大きな教会の近くのマンションに住んでました」

つまり、信士くんの本当の父親は彼が物心つく前に分かれたことになる。その男性は志信さんと連絡を取り合ったりしていないのだろうか。

「お父さんは東京にいるって聞きました。僕をいい学校に通わせてくれるって」
「そうなんだ」

志信さんは早い段階から三実さんを父親に仕立てあげようと考えていたのかもしれない。金剛家の力を借りれるなら、学資などの金銭面は安心だろう。
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