極上パイロットが愛妻にご所望です
「コーヒーでいいよ。……砂羽」

 二畳ほどのキッチンにいる私に彼が座ったまま声をかけてくる。

「はい?」

 背を向けていた身体を、彼のほうに向けて小首を傾げて見る。

「そんなに気を使わないでいいから。早くこっちきて」

「……すぐできますから」

 そこへカチッと電気ケトルの電源が止まる音がし、お湯をカップにセットしたドリップに注ぎ入れる。

 コーヒーを淹れ終えたカップと、皿に載せたクッキーをトレイの上に置き桜宮さんの元へ行く。

「どうぞ。好みに合うかわかりませんが」

「俺、食べ物に関してそんなにうるさくないから。いただきます」

 彼はそう言って、カップを手にして口へ運ぶ。

 私はキッチン側に背を向けて腰を下ろす。桜宮さんの対面の位置になる。

 部屋にはふたりだけ。初めて異性を部屋に上げた。

 キッチンに立っているときも緊張はしていたけど、狭い部屋でふたりきりになると、さらに増してきて、どうしていいのかわからなくなる。

 桜宮さんは長いまつげを落として、熱々のコーヒーをすすっている。

 手持無沙汰の私はテーブルの上の温泉まんじゅうの箱を手にして、包装紙をやたら丁寧に開け始めた。いつもならきれいで保存しておきたい包装紙以外は無頓着にビリッと破いてしまうのに。

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