極上パイロットが愛妻にご所望です
「だいぶよくなったから、心配いらない」

 それをアピールするためなのか、朝陽はふらりとベッドから下りる。

「朝陽?」

「着替えてくる」

 彼は隣のドレッシングルームへ消えた。ドアを隔てて朝陽の咳が聞こえてくる。

 一応しっかりした足取りには見えたけど……。

 だいぶよくなったからって、帰れないよ。帰ったら心配で仕方ない。

 寝室から離れることもできずに、ベッドメイキングをして、朝陽を待っていた。少しして、彼はTシャツとスウェット素材のロングパンツに着替えて戻ってきた。

 きちんと整えられたベッドへ視線を向けた朝陽は「ありがとう」と言い、続ける。

「砂羽、大丈夫だから、帰ってほしい」

「嫌」

 顔を顰めながら、即座に頭を横に振る。

「砂羽にうつしてしまうから」

 大丈夫だと言っても、やはり大儀なのだろう。朝陽は無造作にベッドの端に腰を下ろす。

「うつして。うつしたら治るっていう都市伝説もあるんだから。パイロットの朝陽は早く治さなきゃ」

「砂羽」

 いつもより低い声は、まるで駄々っ子をたしなめるような響きだ。

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