極上パイロットが愛妻にご所望です
 休憩時間は残り十分しかなく、まだ震えが止まらない足を奮い立たせ、慌ただしくチェックインカウンターへ向かう。

「ねえ、砂羽。あれに誰が乗っていたの? あんなに動揺した砂羽は初めてだったわ」

「ん……」

 朝陽だと言えず、「知り合い」とだけ口にする。

「比呂、食事できなかったでしょう? 大丈夫?」

「平気よ。我が社の一大事だもの。終わったら食べるから。さてと、気持ちは落ち着いた? まだ顔色はさえないみたいに見えるけど、仕事できそう?」

「もちろん。つきものが落ちたみたいにスッキリしたし」

 もう朝陽にとって、私はなんでもない存在かもしれないけれど、本当に心から彼の無事を願い、それが叶い、もうなにも言うことはない。

 もしも、会話を交わすことがあったら、「さすが最年少機長。乗客の安全を守ると信じていたよ」と伝えたい。

 休憩後もチェックインカウンターで、仕事に従事する。まだ時刻は十時過ぎ。出国する旅行客やビジネスで渡航するお客さまを素早くチェックインさせていく。

 そんな中、ロンドンからの622便の話がちらほら聞こえてくる。

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