雨のリフレイン
「君は、いつも忘れてるけど。
俺は自分が結婚しているって、片時も忘れていないよ。
水上柊子。それが俺の妻の名前だ」
「みずかみ…しゅうこ…?」

一度も名乗ったことのない、柊子の戸籍上の名前。
初めて、水上の声でその名前が音になる。

「みずかみ…しゅうこ。それ、私…?」

うつむいた柊子の額にコツンと、水上が自分の額を当てた。

「そう。
今は忙しいから、難しいかもしれないけど。
君も、忘れないで。信子さん以外にも家族がいること。君を支える『夫』の名前」
「…家族?」

柊子の声が震えている。
柊子の未来に投資してくれた。その便宜を図る為の結婚。水上にとって柊子は恋愛対象じゃない。
そんな結婚でも、水上が柊子を家族だと思っていてくれることを知って、喜びを感じた。


「…どうしよう。
雨降ってないけど…うれしくて泣いちゃいそう。
お母さん、心配させちゃう」
「じゃあ、泣くな」
「先生、ひどい」

すぐ近くに、水上の笑顔があった。極上の輝くような笑みに、柊子も思わず笑顔になる。
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