雨のリフレイン
「翔太、せっかくだけど。
二人きりで過ごす夜のお膳立てくらいは自分でするよ。明日、お前に色々詮索されるのも嫌だし」


柊子が何とか断ろうと、翔太の気を悪くしないような言葉を選んでいる間に、水上があっさりと断った。


「えー、洸平くん、私、邪魔しないし」
「すみません。
信子さん、また今度にしましょう。
今夜は病院から呼び出しがあるかもしれないんですよ」

不満そうな信子を洸平がなだめる。
そう言われてしまえば、信子は納得するしかない。

「あ、だからか。
洸平くん、烏龍茶ばかりでお酒飲んでなかったものね。なら仕方ないか。帰りましょう」


水上がずっと飲んでいた琥珀色のグラスの中身は烏龍茶だったのだ。てっきりアルコールだと思っていた。やっぱり、どんな時も『医師』という仕事が彼の一番。
それを邪魔する家族にはなりたくない。

母が諦めてくれて、柊子はホッとする。

それに、たとえ泊まるとしたとしても。
恋人同士の関係にもなっていなくて。
キスですら、数えるほど。
柊子を妻だと言ってくれたのは嬉しかったけれど、彼に抱かれる心の準備は足りなくて。

かといって、もしかしたら抱いてもらえないかもしれないと思えば、それは寂しくて。
何しろ、洸平の周りでは色気たっぷりの三浦医師をはじめ、綺麗な看護師達も彼を狙っている。
彼女達と比べると明らかに柊子の女子力は低い。
手を出す気も起きないかもしれない。

だから、泊まらないという選択肢が一番だった。



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