雨のリフレイン
「あ、柊子ちゃん!来てたんだ。
今日の宿題は、どう?教えてあげようか?」


廊下でばったり会ったのは、研修医の一条翔太だ。柊子を見つけて、肩をポンポンと叩く。
アメリカで長く暮らしていた彼はとてもフレンドリーな性格で、気さくに話しかけてくれる。挨拶もいちいち大仰なのがたまにキズだが…


「翔太先生、こんにちは」


最初は一条先生と呼んでいた。
ところが、彼の父親も医師で、一条先生、と言うと、その父親のことを呼んでいるみたいだからと、下の名前で呼ぶようにお願いされた。
周りの看護師も翔太先生と呼んでいる。


「今日の宿題は日本史です。
翔太先生、苦手なんでしょ?」
「あちゃー。日本史かぁ。
そうそう。歴史関係は、からっきしダメなんだ。
でもさ、洸平は得意だぜ?もし、わからないことあれば聞きなよ」
「水上先生が教えてくれるわけないですよー」
「今、アイツ休憩してるから、声かけてあげるよ。おいで」


翔太は、柊子の手を掴んで歩き出す。

水上に、会いたいけど、会いたくない。
揺れる乙女心など知る由もなく。
少々強引な翔太に引きずられるように柊子は歩き出した。


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