雨のリフレイン
間髪入れずに一条拓人に切り返せる相手はそうはいない。言葉のキャッチボールが楽しいのか、拓人は珍しく声を上げて笑っていた。


「…洸平の件ではありがとな。あの後妻、生きてるか?」
「さぁな。俺はともかく、桜木のオヤジがかなりご立腹だったからなぁ。
おまけに、この間のバスの事故。「ZIZEL」のルリママが乗ってたんだろ?ルリママから柊子さんの話は聞いたときは、さすがに驚いたよ」


銀座の超高級クラブZIZEL。著名人が集うそのクラブのママ、山口瑠璃子。バス事故の被害者だ。集中治療室で柊子の隣のベッドにいて、柊子を励ました女性。
とにかく顔が広く、築き上げた人脈でその世界の頂点に君臨している。
彼女は、桜木と若い頃から付き合いがあった。
また、かつては看護師として翔太の父と共に働いていた。その縁もあり特に翔太は、彼女に『若先生』と呼ばれ、随分と可愛がってもらっている。
拓人も顔なじみだ。

「桜木のオヤジに、ルリママまで味方についたとなれば、あの後妻が裏から手を回してくる心配はないな。
全く、スゴイ子だよ、柊子ちゃんは」

そう言った翔太の表情に、わずかな惑いがよぎったのを、拓人は見逃さなかった。
妹やら、愛玩動物やらと例えていたけれど、やっぱり心の奥底には、“愛”があったのだろう。

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