雨のリフレイン
「夢を見る時間?
…そうか。
信子さんが仕事が出来ないと、経済的に厳しいのか」


柊子は膝の上に置いた自分の手のひらを見つめた。この手で掴みたかった、夢。あと少しのところでこぼれ落ちてしまった。


「私にとって、一番大切なのはお母さんだから。
看護師の勉強は、また落ち着いたら頑張ります」

こんなときでさえ、柊子は水上に笑顔を見せる。だが、その笑顔は洸平の嫌いな貼り付けたような笑顔。相手を思い、無理やり作った笑顔だ。

「いや、あと一年じゃないか。
看護師の資格を取って仕事した方が収入も多いし、信子さんも喜ぶ。
金なら…生活費や治療費なら、俺が払うから」
「え…だ、ダメですよ。水上先生にそこまでしてもらうわけにはいきません。
今までも、本当に感謝しきれないほどご迷惑をかけてきて、これ以上は、もう…」
「信子さんは、自分の体のこと、よくわかっていた。だから、急に一緒に住みたいなんて、言い出したんだろうな。
君がそうやって思い詰めることも、信子さんにはお見通しだ。
そんな君を見守る役に俺が選ばれたんだ」


水上は、柊子の隣に座ると、その手を包むように重ねた。
柊子の手は氷のように冷たく、わずかに震えている。
自分より小さなその手に、重い責任を抱えている。
まだ21歳だというのに。


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