闇色のシンデレラ
「失礼します」



すると後ろから襖を開ける音と、男性の声。


志勇が帰ってきたのかと思ったけど違った。


そこには板前姿の力さんがいた。


手に湯飲みと茶菓子を乗せたおぼんを持つ力さんは、低い姿勢で部屋の中をキョロキョロ。



「姐さん、オヤジは……」

「あら、ありがとう力くん。
冬磨ったら志勇とどこかに行っちゃったの。
すぐ戻ってくると思うからそこに置いてもらえる?」

「はい」



そしてそっと部屋に入り、それぞれの場所に湯飲みセットを置いていく。



「あ、わたしの一押しの和菓子持ってきてくれたんだ。さすがね力くん」

「いやあ、本家の厨房として当然です。
褒められるなんてとんでもねえ。
……では、失礼しました」

「はい、忙しいのにお疲れさま」



力さんは褒められて嬉しいのを隠したいのか、鼻の穴をふくらませる。

おもしろい人だと観察していたけど、彼はすぐに部屋を出て、また静かになる空間。



「どうぞ、いただいて。力くんの淹れたお茶はおいしいのよ」

「いただきます」



そうして口を含んだ緑茶は本当においしくて、ほっと息をついた。
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