闇色のシンデレラ
SIDE 司水



志勇と壱華様が出られた後、客間は物悲しく閑寂(かんじゃく)としていた。



「冬磨、志勇たち帰っちゃったわよ?」



ただ、姐さんの凛とした鈴のような声が渡るのみ。


しかしオヤジは素知らぬ顔で、あぐらをかいたその上に姐さんを乗っける。


いつになく眉間に深いシワを寄せ、やりどころのない苛つきを彼女を胸に抱くことで忘れようとしているようだった。


このようにオヤジが不機嫌に陥っているのは、志勇に対する怒りのせいだろうか。


それとも若き頃の『金獅子の君』と現在の『シンデレラ』を重ねてしまったせいなのか。



オヤジの胸中はどうあれ、確かに先ほどの志勇には驚かされた。


あそこまでオヤジに反発するのは久方ぶりだった。




元来独占欲の強い彼が、自分の手にした物を他人に渡すことを嫌がるのは承知の上だ。


だがしかし、オヤジに声を荒げてまで断固拒否の態度をとったのは久しい。


あれは、俺がやむなく世話係を離れたときと似ている。



以前まで、つい5年ほど前の『事件』まで、俺は志勇の所有物だった。
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