同期のあいつ
昨日の夕方まで、私の気分は上々だった。
2年も掛けて、何度も交渉してきた新規の契約をものにしたのだ。
大学卒業後、名の知れた上場企業である鈴森商事に入社して6年。
今では営業課チーフ。女でもできるって必死に頑張ってきた。
いつもは意地悪しか言わない部長まで、昨日は珍しく喜んでくれた。
頑張った苦労がやっと報われたと思っていたのに・・・定時を過ぎて社長室に呼ばれるまでは。

こっそりと携帯で呼び出された自社ビルの最上階。
絨毯も調度も良いものを置いているんだろうけれど、殺風景でさみしさしか感じない。
この前ここに来たのはいつのことだっただろう。

えっと・・・
そうだ、1年前。
お見合いを土壇場ですっぽかして、学生時代の友達の家に逃出したとき。
週末を友人宅で過ごし月曜に出社すると、社長秘書の香山さんに呼ばれたんだった。
それも私に直接ではなく、部長を通しての呼び出し。
当然、みんな興味津々で「どうしたの?」「何があったの?」って聞いてきて大変だった。

「香山さんは大学の先輩なのよ。近々OB会があるらしくって・・・本当に、公私混同されたら困るわよねえ」なんて必死にごまかした。

「いいなあ、一華さん。香山さんと知り合いならもっと早く教えてください。私、すっごいファンなんですから」
後輩の可憐ちゃんは目をキラキラさせていた。

社長秘書の香山徹(かやまとおる)。
歳は私より三つ上の31歳。
背も高くて、イケメンで、仕事もできる。
女子が放っておかない超優良物件なんだけれど・・・私は苦手。
昔は仲良く遊んでいたのに、今はいつも上から目線で私を馬鹿にしたような態度が許せない。

はあー。
またあの顔を見るのね。
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