同期のあいつ
「どうぞ、社長がお待ちです」
待ち構えていたようにドアを開けられ、上辺だけの笑顔で迎えられた。

「・・・」
私は返事をする気にもならず、黙って社長室へと入った。


やたらと広い社長室で、大きなデスク越しに私を見据える社長。
応接セットを挟んで向かい合った私。
私の後方にはドアを背に香山さんが立っている。

うわー、イヤな感じ。

「一華」
「はい」
反射的に返事をしてしまった。

「見合いをしろ」
「はあ?」
「来週の土曜日10時、プリンスホテルのロビーだ」
「いや、私は・・・」

「今度逃出したら職を失うと思え」
「はあ?」

「もういい。話は終わった。戻りなさい」
仕事で大口の契約を取ったことを褒めてもくれずに、命令された。

悔しかった。
自分自身の存在を否定された気がした。
結局この人には何を言っても無駄なのよ。

小さい頃から一緒に出かけた覚えもなく、膝に乗せられたことも、肩車をされた記憶もない。
ただ、生物学上の父親。
それだけの人。

父さんなんか、大嫌い。


私は社長室を飛び出した。
この場所に一秒もいたくはなかった。

「一華、待って」
後ろから香山さんの焦った声がする。

いくら兄さんの親友でも、今は大嫌いな社長の腹心でしかない。
そんな人に呼ばれて立ち止まるはずはなかった。

「逃げるな。このままじゃ何の解決にもならないぞ」
背を向けている私にも香山さんの声がはっきりと聞こえた。

う、ううー。
エレベーターに乗り込み、私は泣き崩れてしまった。
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