同期のあいつ
午後7時。
麻布の日本料理店『粋』

出席者は先方の部長と担当者と、私の3人。
いつもはうちからも2人来るんだけれど、『簡単な打ち合わせだから鈴木さんだけでいいですよ』って言われ、こうなった。
少しイヤな予感はするけれど、昔からの取引先だし、大丈夫でしょう。

『いらっしゃいませ、お待ちしておりました』
女将の案内で個室に通される。


「まずは乾杯」
割腹のいい50代後半の担当部長。

私にビールをつぎながらニタニタしている。
ついてきた担当者はおとなしそうな男性。

「じゃあ私も」
とビールを注ぐんだけれど、
「ああ、ありがとう。じゃあ」
と注ぎ返されてしまう。

考えてみれば2対1。
私が飲まされる方が絶対多いわけで、不利なのはわかった事だった。
でも・・・

「こちらが先日お話しした新商品の資料です」
商品を売り込みたくて、私も必死だった。

本当は接待の席で具体的な仕事の話なんて滅多にしないけれど、この部長はこんな所でしか話を聞いてくれない。
仕方なく今日ここに来た。

「ふーん、なかなか面白そうだね」
興味ありそうな部長。
「そうなんです。ここが今までと違うところでして」
「ふーん。鈴木さん、まあ飲んで」
とお酒をつがれれば、

「ありがとうございます」
グラスを空けるしかない。
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