同期のあいつ
ブブブ ブブブ。
携帯の着信。

カバンの中の携帯に手を伸ばす。

あ、あああ。
兄さんだ。

まだ頭も痛いし、気持ちも悪い。もう少し寝ていたいのに・・・

「もしもし」
「今どこだ?」
「えっと・・・友達の家」

「どこだ?」
「だから・・・」

困った。
まだ頭が回らない。

「一華ッ」
大きな声で怒鳴られて、思わず携帯を離した。

すると、
スーッ。と高田が携帯をとった。

えっ。
ああ、「ダメ」
止めなきゃいけないのに、体が動かない。

「突然すみません、一華さんの上司で高田と言います。一華さんの・・・」
電話の向こうから
『兄です』
と不機嫌そうな声。

「お兄さんですか。実は接待の席で気分が悪くなったようでして、今は少し休ませています。もう少し落ち着いてから送ろうと思いますので」

兄さんだって高田の事は知っているし、高田も自分の会社の専務を知らないはずがない。
まさか私の兄だとは思ってもいないでしょうけれど。

「え、ええ。はい。わかりました。はい、失礼します」
キョトンとした顔を向ける高田。

「兄さん、何か言ってた?」
「迎えに来るって」
はあ?
「ここに?」
「ああ。迷惑を掛けたら申し訳ないって言ってたけれど、相当怒ってる様子だったぞ。大丈夫なのか?」
「・・・わからない」

高田のマンションにいたってバレたら間違いなくキレるわね。

「兄さんが来るって?」
んな訳ないわよね。
「いや、家の者を向かわせますってさ」
へえー。車をよこすって事ね。

「鈴木のお兄さんの声って、聞き覚えがあるんだけれど」
うわ、ヤバ。
「ど、どこにでもある声でしょう」
「そうか?」
「そうよ。じゃあ、支度するから」

私は重たい体を起こし、カバンを手にする。
まだフラフラする私を高田が支えてくれて、エントランスに降りてしばらくすると、見慣れた車が到着した。

「じゃあ」
「ああ、あんまり調子が悪ければ明日は休めよ」
「うん」

子供の頃からお世話になっている我が家の運転手さんに支えられ、私は車に乗り込んだ。
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