同期のあいつ
運転手さんに抱えられて帰ってきた自宅。
父さんはまだ帰っていなかった。
倒れ込むように玄関に座り込んだ私。

「接待だったんだな」
「うん」
心配そうな顔の兄が待っていた。

「これからは1人で行くんじゃないぞ」
え?

兄さんは今日の事を知っている。
できれば知られたくなかったのに。

「あそこの部長は以前から悪い噂があったんだ。お前だって知らないわけがないだろう」

確かに知っていた。
完全に私の不注意でしかない。

う、うう。
話しているうちに、恐怖がよみがえってきた。

「こんな思いまでして仕事がしたいのか?」
呆れたような口調。

元々、兄さんも父さんも私が働く事には反対だったから、今日の事がしれれば仕事を辞めろって話になるだろう。
見合いをして結婚すればいいって、言うに決まっている。
でも、イヤだなあ・・・

「お前は危険な目に遭ったんだぞ」
「・・・わかってる」

でも、ここで投げ出したくはない。
逃げるのはイヤだから。

「母さんは?」
思い切って話の矛先を変えてみた。
「父さんの同伴で財界のパーティーに行ってる」
「そう」

専業主婦で、父さんや子供や家のためだけに生きてきた母さん。
私はその生き方が嫌いだった。
母さんのようにはなりたくないと思って生きてきた。
私が仕事にこだわるのは母さんへの反発でもある。

「今日の事はもういい。忘れろ」

兄さんにしては珍しく、説教が短い。
高田の事も追求されなかった。
さすがに私が弱ってるってわかったのかもしれない。

「二度と1人で酒席には行くんじゃない。いいな?」
「はい」

私も今日の事は反省している。
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