同期のあいつ
「僕が二十歳のとき、まだ大学生だった頃、付き合っていた彼女がいたんです。高校時代からのつきあいで、お互い大学を出て社会人になったら結婚しようって約束をしていました。
彼女が僕の前から消えてなくなるなんて、ありえないと思っていたんです。
でも、あっけなくいなくなった。事故でした。
人は突然消えるんだって初めて知りました。
もっといっぱい話をすれば良かった。手をつないで公園を歩きたかった。彼女の料理はとても美味しいのに、『美味しかったよ、ありがとう』そんな簡単な事も言ってやれなかった。
人は失ってみないとその大切さに気づかないんです。
恋人も、友人も、親でさえ、いつかはいなくなるのに」

私は何も言えなかった。

「僕も一華さんと同じで結婚なんてする気はありません。また誰かを失うなんて耐えられませんから」
「・・・」

父さんや母さんに反抗してお見合いを壊そうとしていた自分が恥ずかしい。
どんなに強がっても私は非力で、鈴木の家を出れば何もできない。
それなのに、1人で生きてきたような顔をして。

「少しは反省しましたか?」

え?

「頭の弱いわがままお嬢様のフリは見ていて気持ちの良いものじゃない」
「・・・すみません」

「今日はこのまま送ります」
伝表を持ち立ち上がった白川さん。

「あの、1人で帰ります。1人で帰りたいんです」

「わかりました」
そのまま白川さんは出て行った。

私は言葉にできないくらいの自己嫌悪に襲われた。
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