同期のあいつ
やって来たのは小さなカフェ。
窓から外を見渡せる席に、並んで座った。

「一華さんはどうしてお見合いを壊したいんですか?」
「別に」

お見合いを壊したいわけではない。
できる事ならしたくなかっただけ。

「好きな人がいるとか?」
「いえ、いないと思います」
「人ごとみたいですね」

確かにそうかも。

「私、仕事がしたいんです。今はまだ、結婚は考えられません。ただそれだけです」
「ふーん」

カウンターに肘をつき、ボーッと外を眺める白川さん。

「結婚と仕事って二者択一なんでしょうか?違うと思うけれどなあ」
「え?」
「結婚なんて『さあ、今から相手を見つけて結婚するぞ』って気負ってする物ではないでしょう?日常生活の延長線上にある物のはずです。今はまだ、一華さんがずっと一緒にいたい、結婚したいって思う人に出会えてないだけだと思いますよ」
「そうでしょうか?」
「僕はそう思います」

すごい、白川さんってとっても大人。
たった一言で、私の気持ちをこんなに軽くするんだから。
私もいい年だけれど、まだまだ子供だなあ。

「白川さんっておいくつですか?」
「それもはじめに会ったときに言いました」
「すみません」

「・・・28です」
「えええ、同い年?嘘」
「それは老けているって事ですか?」
「いえ、考え方がすごく大人だなあと思ったから」

やっぱりお医者さんだからかなあ。人の命に向き合うと、人生観も変るのかしら。

「きっと、僕が大切な者を失った事があるからですよ」
「大切な者?」
「ええ」

白川さんは私を振り返る事なく、真っ直ぐ前を見ながら話し始めた。
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